ミミ言

思っていることをつぶやいていきます

魔王・第4話

~第4話~
運転中の芹沢。しかし頭の中は、思い出した過去の事件がグルグルと駈け巡っている。
「山野をいじめるな!」と叫ぶ領の弟。刺してしまった自分、血で真っ赤に染まった両手…。歩行者を轢きそうになり、急ブレーキを踏む芹沢。ハンドルを握り締め「すみません…。すみません…。」と蚊の泣くような声で呟く。驚く助手席のしおり。

葬儀場。石本の棺桶に駆け寄り、泣く親族と友達。荼毘に付される瞬間、芹沢が飛び込んでくる。取り乱す芹沢を葛西が止める。「おせぇよ!」となじる宗田。それを一部始終見ている領。
「心からお悔やみ申し上げます。大切な人を失う辛さ、私にもわかります。」と芹沢に言うのだった。言葉を失う芹沢。立ち去り際に、静かに振り向き、芹沢の背中を、微笑みながら最大の憎しみを込めた目で見つめる領。
そして、ニヤッとした瞬間の領の顔をカメラがフォーカスする…。

署に戻り「刑事を辞めさせて下さい。」と中西に辞表を提出する芹沢。中西は、理由を問うが、自分には刑事の資格がない、悪党なんだ、と答える芹沢。情けない、と言う中西に、
「そうだ…忘れてました…。オレが悪党で情けない奴だってこと…。」と言って立ち去る。

事務所に戻る領。階段の上で、待ちかまえている、評判のよくない雑誌記者、池畑(六平直政)。天使の弁護士とか言って、本当は悪魔なんじゃないのか?と言う。静かに見つめる領。

自宅で、中学の頃のアルバムを見る芹沢。領の弟の写真に目が留まる。そして、一緒に写っている山野のことが脳裏に浮かぶ。

領の事務所。大物弁護士の熊田が殺害され、犯人が不起訴になるなんて…「被害者にとったら、成瀬さんは悪魔ですよ…。」と言う池畑。「そういうことですか。」と領。
芹沢家からの顧問弁護士の依頼を断れと言う。芹沢栄作の汚職記事を書いたが、もみ消され、池畑は会社をクビになったのだ。栄作にひどく恨みをもっているらしい。
何とかして栄作を潰したいが、有能な弁護士がついてると動き辛いので困る…と言う池畑。
領は結論は自分で下すと言い、芹沢の息子が刑事だ、とわざとほのめかす。それを聞いた池畑は驚き、そしてすぐにハイエナが獲物を見つけたかの様にニヤッと笑って、事務所を飛び出していく。ほくそ笑む領。

葛西に山野と連絡を取りたいと電話をする芹沢。山野が出版社に勤めていると知った芹沢は自宅を飛び出す。そこへ池畑がニタニタ笑いながら近づいて来る。「坊ちゃん。」と芹沢を呼び止め、11年前の事件にふれ、「あなたが刑事になってるなんて…刑事と言えば正義の味方だ、いいんですかね…少年Aさん。」とギラギラとした目で囁く。芹沢の顔は青ざめる。

出版社。残業中の山野に声をかける芹沢。話があると言うが、山野は逃げる。それでも、引きとめようと山野の腕をつかむと、山野は「僕に触るな…。」と怯えて逃げていく。後を追いかけ、石本が死んだことを告げる。何か知っているんだろう?と問い詰めるが、「気の毒だね、友達が死んで。悲しいだろう、友達が死ぬって本当に辛いからな。」と言う山野。
芹沢は、山野にもう辞めてくれ…悪いのは俺だ、何でもする、どんな裁きでも受ける、と懇願する。それを聞き、うすら笑いを浮かべ、何を言ってるのかわからないと山野。「でも、君は本当にひどい人だった。裁きを受けるべきなのは確かだ。せいぜい苦しめ。」と言い、立ち去る。呆然とその場に立ち尽くす芹沢。
いじめられている仕返しにナイフを持ち出そうとして、領の弟に止められ、ナイフを取り上げられる。そのナイフのせいで、領の弟は芹沢に殺されてしまい、現場を目撃している山野。「英雄、ごめん…。」と呟き、泣きながら街を歩く山野。

図書館。本棚の向こうに、抜け殻のように立ちすくんでいる芹沢を見つけるしおり。
神様は許してくれるのか…。しおりに、中学の頃の事件の懺悔を始める芹沢。中学の時に、自分は率先していじめを繰り返しており、11年前同級生を殺してしまった…それからは正しく生きようとすれば、神様は許してくれるんじゃないかと思っていた、と。しおりには隠し事はしたくなかったから全てを告白した、と言う芹沢。生きなければいけない、全力で生きてください、と励ますしおり。
少し、顔に表情が戻った芹沢。その足で署へ向かう芹沢。11年前の事件を署の仲間に話し出す芹沢。最初からそのことは知っていた、という中西。どんなに辛くても過去から逃げ出さない芹沢、そんな芹沢の過去に何があっても信じることができるか?と問い、署の仲間は、皆、芹沢を信じると誓う。
そこへ、宅配便が届く。
ニヤリと笑う領の顔…。

奪い取り、箱を開ける芹沢。そこには、カードでなく中学の頃から刑事になるまでの芹沢の写真と手紙が入っていた。刑事になり現在に至るまでの間の写真には、芹沢を掴まえるような手が写りこんでいる。やっぱり俺が狙いなんだ…と怒る芹沢。

手紙の内容は、ダンテという『神曲』という本の一節で、地獄の門が話している言葉だと説明するしおり。
苦悩の都に向かう者、我を通り過ぎよ
永遠の苦悩に向かう者、我を通りすぎよ
魂を失った人を訪ねる者、我を通りすぎよ
地獄の門というのは、地獄の入口にあり、その先には絶望しか待っていない…つまり、
地獄の始まりを知らせる言葉だと。
教会で地獄の門の彫刻をじっと睨みつける領。
芹沢は、残像を見て欲しいとしおりに頼む。しかし、しおりは捜査を攪乱させる為に残像をコントロールされているのでは?と疑いを持っているので一瞬戸惑う。犯人の植え付けた残像があるなら、狙い通りに操られる可能性はある、と。それでも、犯人を突き止めるためなら、地獄の果てまでも追いかけるから見て欲しいと言う芹沢。
残像を始めるしおり。革手袋。ロッカーの中に赤い封筒を入れる。333という数字を見る。333という数字はどこかで見た気がする…と言うしおり。

オフィスにいる葛西。葛西の元にも赤い封筒が届く。中には、芹沢麻里との密会写真が入っていた。そこへ麻里と典良が入ってくる。そして典良は、仕事ばかりでなく彼女でも作ったらどうだ?誰か紹介してやれと麻里に言う。麻里を呼び出す葛西。写真が届かなかったかと確認する葛西。写真を見せられ動揺する麻里。抱きしめる葛西。その瞬間をまたカメラが捉える。

しおりのカフェで空に絵本を読んで聞かせる領。空は、しおりの手をひっぱって領と一緒に本を読もうと誘う。本を読み聞かせている瞬間だけ、領の顔が天使のようになる。そこへ入ってくる芹沢。芹沢が領のことを呼び出したのだった。そして、空を連れ出した男がわかったから、確認の為に空に協力を乞う。山野を呼び出す芹沢。二人が見える位置に芹沢の同僚の高塚が空を連れてきて、確認をする。そんな空を、見つめる領。その目は、空が本当のことを言ってしまったら、という不安と、言うんじゃない、と念じているような目だ。
山野は去り、空に問い詰める芹沢。空の出した答えは、知らない、と。領の元へ駆け寄り抱きつく空。
「刑事さん、どういうおつもりですか?空はウソをつきません。答えを強要なさってます。」
と諭す領。その傍らで、立ち去る山野の後ろ姿に向かって、空はニコッと微笑み、ピースサインをする。それに気付いた領もニヤッと笑う。遊園地から戻り、教会の前に空を置き去りにする前に、山野は空と約束をしていたのだ。悪い人に、自分のことを聞かれたら、知らない、と答えるように…と。そして、ピースが二人のサインのようなものだったのだ。そのことを思い出しながら、歩道橋の上を、指でピースサインを作りながら、ニタニタ歩いていく山野。背後のビル壁に備え付けられた大型ビジョンには、魔王の目が山野の背中を見つめている。

今回の一連の事件は、正当防衛で無罪となっているが、芹沢の11年前の事件が関係しているので、事件関係者の親族の捜査をさせて欲しいと管理官に申出る中西。

領は、空にカフェで読み聞かせていた本のことを、しおりに問う。
トンネルの外で、中に入った兄を助けに行こうか迷っていた妹が、兄を助けに行ったのか?
何故、妹は助けに行くことを迷っていたのか?
妹は自分をいじめる兄に消えて欲しかった、でもそう願っていたら本当に兄は戻ってこなかった。自分のせいだ、という自責の念から、兄を探しに行けなかった…。
やましい気持ちがあればあるほど迷いは生じてしまうものです…と微笑みながら話す領。
言葉なく、領を見つめるしおり。領は、この絵本の妹に芹沢を重ねているのか…自分を重ねているかのようにも思える。

ゆがんだハーモニカを手に取り、河原に座っている領。そして、栄作に宣戦布告をした時のことを思い出している。
「芹沢栄作さんですね。あなたの息子に、弟を殺された者です。今日はあなたにお願いがあって来ました。これからも変わらず元気にお過ごし下さい。決して落ちぶれず、死ぬこともなく、今のまま、いや、今以上に他人を犠牲にして。覚えていて下さい。いつどこにいても、この僕があなたの息子と家族を見ていることを。そして再び会いに来ることを。」
と言い放ち、栄作を睨みつける過去の領と今の領の目が重なる。

顧問弁護士を引き受けてくれるなら、何でも条件を呑むという栄作。では…条件はひとつだけ…隠し事はしないで下さい、この仕事は信頼関係が第一だから、と言う領。了承し領は芹沢家の顧問弁護士となる。ニヤリと笑いながら、立ち去る領を、池畑が見つける。

暗室の中。領は池畑の写真を見つめているところへ携帯が鳴る。芹沢の顧問弁護士を引き受けたことをなじる池畑。そして、領に「先生だって調べられたら困ることはあるだろう…覚えておいて下さいよ。成瀬さん。」と忠告する。険しい表情の領。

自宅に戻る葛西。誰もいないかと思い、置いてある宗田の鞄の中をあさる葛西。何してんだよ、と背後からの宗田の声に驚く葛西。本当はあの密会写真を送ってきたのは宗田じゃないのか?と思って鞄をあさっていたのだが、宗田にタロットが届いてないか聞く。
しかし、宗田は芹沢のことを信用するな、所詮あいつは殺人犯だと言う。それでもかばう葛西に、宗田は昔からお前は芹沢のパシリだったからな、と言い放ち、葛西はカッとなり宗田の胸座をつかむが、こんなことしていいのか?の一言に、手をゆるめ、宗田は俺をなめんなよ、と部屋を出て行く。

芹沢と高塚は、領が11年前に住んでいたアパートの大家にあの家族はどこに行ったのか聞いている。しかし、弟の通夜の時に母親も心臓発作で亡くなってしまった、兄はどこに行ったのかわからない、と言われてしまう。母親も弟の事件がなかったら死ななくて済んだのに、という大家の一言に、愕然とし嘆く芹沢。
そして、アパートに駆けつけたもう一人の同僚倉田に、家族の行方はわかったか?と聞かれ、残す手がかりは兄しかいない、と告げたところ、兄も亡くなっているので無理だと言われてしまう。倉田の持ってきた戸籍謄本には、真中英雄の兄は真中友雄と記載されており、英雄の死の1年後に死亡していることになっていた。

芹沢は、しおりから残像で見た333の数字がわかったと連絡が入り、図書館に向かう。
333という数字は、本棚に記載された本の分類の数字だった。芹沢は、その本棚から『神曲』を見つけ、中を見ると、芹沢直人様と書かれた赤い封筒が挟まっていた。

一方領は、海辺の施設を訪れる。そこには車椅子に座った、盲目の領の姉、真紀子(優香)がいた。花束を抱え姉に近寄る領。「久しぶり…姉さん。」と声をかける領に、嬉しそうに答える真紀子。  ここで…つづく。