ミミ言

思っていることをつぶやいていきます

魔王・第10話 ②

~第10話 ②~

葛西との面会を終え、階段を下りてくると、芹沢が下から上ってくる。「これで満足ですか!すべてあなたの思い通りに進んでいます。これで満足ですか!」とすれ違いざまに、領に問いかける芹沢。領は険しい表情で、何も答えない。
「おかしいんです。あなたを心底憎もうとすると、英雄とあなたのお母さんのことが浮かんでくる。あなたを捕まることを考えると、やりきれない気持ちになるんです。あなたを通して俺を見ているようで…。」振り返る領。「あなたは俺と同じ顔をしている。自分の罪に苦しみ、もがき、後悔してもしきれない、そんな顔をしています。」
領は、うろたえ「一緒にしないで下さい。」と言い、階段を下りようとすると、「真中友雄さん!」と叫んで芹沢が追いかけてくる。そして、領の前に立ち、「すみませんでした。」と深々と頭を下げる。「あなたに、ずっと謝りたかったんです。11年前のあの日からずっと。あの事件の後、俺は家を訪ねていったんです。でも、もう引き払っていて。死んで、死んで償うことも考えました。でも、ここまで生きてきてしまいました。刑事になって、悪い奴等を捕まえて、人の役に立てていれば、それで許されるような気がしていたんです。でも、それは間違っていました。あなたをこんな目に合わせたのも、全部俺の責任です。だから、何でもあなたの望むようにします。死ねと言うなら、ここで死にます!」

懺悔する芹沢をじっと見つめる領。「やめて下さい。今更何を言われても、結末は変わりません。」と答える領。
「あなたは、俺をどうしたいんですか?」と問う芹沢。
「答えはもう…すぐそこまできています。」と言い、歩き出す領。前方から、高塚が走ってくる。そしてすれ違う際に、高塚が赤い封筒を手にしているのを見る。振り返る領。切手の貼られた赤い封筒を受取り、領を見る芹沢。中から、典良の写真が出てくる。その写真には、宗田が殺された廃墟の建物から出てくる典良が写っていた。領のいた方を見るが、もう領はいなかった。驚愕する芹沢。頭の中で「事件のあった日も、九州に出張でな。」「楽しみですね、あなたが真実を知った時に、どんな選択をするのか。」という典良と領の言葉が交錯する。高塚の呼びかけも無視をし、呆然としている芹沢。そして、突然走りだす。
一方、典良も郵便物の中から、赤い封筒を開封し、自分が宗田の殺害現場の建物から出てくる写真を見て、息を呑み驚いている。


夜の公園の亭。雨が降っている。「震えてきますよ。散々僕を追い回した奴等を、今は僕が追いまわしているなんて。これでやっと英雄に償える。ずっと後悔してたんです。芹沢が正当防衛なんかじゃないって証言しなかったことを。あの4人にいじめられている僕を助けてくれたのは英雄だけだったのに。それなのに、僕は英雄を裏切ったんだ。」
山野の言葉に、じっと耳を傾ける領。
「あなたは十分償いました。これが、最後の仕事です。」と山野に言い、赤い封筒を置いていく領。

カフェ。しおりに、現場に落ちていた葛西の万年筆から、残像を読み取ってもらおうとしている芹沢。しおりが万年筆に手をかざそうとした瞬間、芹沢は、「あの…何が見えても全部俺に教えて下さい。」と言う。「はい。」と答え、残像を読むしおり。
「血まみれの男の人に、男性がタバコを差し出してました。その後、血まみれの人が倒れて…。」タバコを出した男はどんな男だったかを聞く芹沢。しおりはどこかで見たことがあると言う。意を決して、典良の写真を差し出す。そうです、この人がタバコを…と言うしおり。うろたえ、目の焦点が定まらない芹沢。礼を言い、出て行こうとする芹沢に、しおりは、もしかして知り合いの人なのか聞く。芹沢は、俺の兄貴です、と押し殺すように言い出て行く。

雨の中、朦朧と歩く芹沢。崩れ落ちるように、地面に顔を埋める。

栄作のオフィス。「どうなさったんですか?急に遺言状なんて。」と聞く領。栄作は、自分の教育が間違っていたかもしれない、息子達はわかっていない、自分がどんな思いでここまで伸し上がってきたか、真っ当なやり方だけでは地位も財産も築くことはできない、息子達だけでは不安でたまらないので、自分が倒れることがあったら、息子達を支えて欲しいと言う。
その言葉に領は、「勿論です。いつどこにいてもこの私が、あなたの息子さんを見守ります。」と。少し安心した、という栄作だが、
笑みを浮かべながら、静かに語り始める領。
「この11年、芹沢家のことだけを考えて生きてきました。ありがとうございました。変わらず元気でいてくださって。落ちぶれることもなく、他人を犠牲にして。」まっすぐと栄作を見つめる領。怪訝そうに聞いていた栄作だが、11年前に、友雄に言われたことを思い出す。「決して落ちぶれず、今以上に他人を犠牲にして、覚えていて下さい、この僕があなた息子と家族を見ていることを、そして再び会いにくることを。」驚きを隠せず、一瞬声が出ない。
しかし、すぐに「き、君は…。見事だ、あの日の言葉通り会いに来たというわけか。」と笑い飛ばす栄作。無表情な領。
「悔しかっただろうな。それは当然だよ。君の気持ちはよくわかる。だがね、人間というのは、錯覚を起こす生き物だ。おかれた立場や条件によって、真っ直ぐに引かれた線が、曲がって見えたり、曲がっている線が真っ直ぐだと信じてしまう。」
「何が言いたいんです?」と栄作を睨みつける領。
「11年前の私には、あれが正しい選択だと思えた。正当防衛に仕立てることが、息子のために父親ができる最善の選択だった。今、また同じ立場におかれたら、同じ選択をするだろう。それが親というものだ。」
と言う栄作に、憮然とした態度で「私の母親も、あなたと同じように息子達を愛していました。でも、あなたは、愛する息子を奪われた母を、さらに傷つけ踏みにじった。自分がどれだけ他人を苦しめたのか、考えたことがありますか?私はあなたを許さない。」
領の言葉に耳を傾けている栄作だが、
「自分のことはどうなんだ?君もまた、自分の目的のために他人を不幸にしている。君も曲がった線を真っ直ぐだと信じているだけだよ。」
一瞬、栄作の指摘に視線がたじろぐ領。
「11年前のあの時、直人は英雄君を刺してはいない。直人は私に必死でそう訴えた。あれは不慮の事故だったんだよ。」
突然、明かされる事実に動揺する領。
「あなたは、そんな言葉を信じるんですか?」
「息子の言葉を信じない父親がどこにいる?だが、あの状況から見て、あれが事故などとは世間に通用するわけがない。だから息子のためには、正当防衛にするほかなかったんだ。でもね、真中友雄君、あれは事故だったんだよ。」
「そんなことは問題じゃない。現に英雄は死んだんです。」と立ち上がる領。
栄作も立ち上がり「すまなかった。」と領に深々と頭を下げる。

何も言えず、部屋を出る領。直人から栄作から、同じように深々と頭を下げられて、しかも、直人は英雄を刺してはいない、という事実まで聞かされ、自分の人生を犠牲にしてまで、復讐を企てて実行したのに…やりきれず、動揺を隠せない様子の領。

中西に、典良の写真を見せ、芹沢典良を宗田殺しの重要参考人として、令状を取って欲しい、真実を隠してはいけないんです、と中西に言う。

典良は、今からパリに行くという。麻里にもついて来いと強いるが、麻里は頑なに断る。典良は、自分のためにはこんなこともできないのか?と詰る。しかし麻里は、典良は自分を必要としているわけじゃない、体裁のためだけに別れないだけで、愛してはいない、だから別れて欲しいと言うと、俺より葛西を選ぶのか、といい麻里の頬を打つ。麻里は、さよなら、と言い残し部屋を出て行く。
口論の後、麻里との結婚式の写真を見つめる典良。出発しようとした時に、部屋のドアが開き、直人が入ってくる。警察手帳をかざし「署までご同行願います。宗田充殺害の件で。」と告げる。何故?と聞く典良に、直人は写真を見せる。拒む典良。そして、自分はいつだって、直人をかばってきた、なのにお前は…と詰る。
「人は過去を忘れても、過去は決して人を忘れない。頼む、兄貴、罪を償ってくれ。」と言う直人。連行されながら、典良は直人を見ているが、直人は視線を落とし、俯いたままだ。

君もまた自分の目的のために他人を不幸にしている、あれは事故だったんだよ、と言う栄作の言葉が脳裏に浮かぶ領。気が付くと教会の前まで来ていた。
教会の中に入ると、一心に祈りを捧げているしおりを見つける。領に気付き、振り返るしおり。領は立ち去ろうとする。
「本当は迷ってるんじゃないんですか?暗いトンネルの奥で、戸惑ってるんじゃないんですか?勇気を出して出てきてください。どんなに苦しくても、やりきれなくても、暗いトンネルの中から出てきて下さい。」と泣きながら訴える。
「もう…戻ることはできない。」と答える領。
「もうやめて…。あなたを思うと辛いんです、成瀬さんを思うと、胸が苦しくなるんです。あんなに優しく笑う成瀬さんが、こんな恐ろしいことを…。」
「これが、僕の本当の姿です。」領の頬を一筋の涙が伝う。
「そんなはずない。本当のあなたは、真中友雄さんは、弟さんを思う優しい人です。」
「僕は、真中友雄ではありませんよ。名前も過去もすべて捨てたんです。英雄が死んだ時から。」立ち去ろうとする領に、
「自分を捨てないで下さい。なぜ自分を愛してあげないんですか?あなたは皆に愛されるべき人なんです。お願いします、もう自分を苦しめないで下さい。」と、領の腕を掴むしおり。
「僕には、愛なんて必要ない。」と、しおりの手を振りほどき、立ち去る領。
泣きながら、崩れ落ちるしおり。
教会の門に、顔を伏せ涙する領。

署内。落ち込む芹沢に、中西は、芹沢宛に届いた切手の貼られた赤い封筒を差し出す。
「闘おう、一緒に。俺はお前を死ぬ気で支える。」と力強く言う中西。
芹沢が封筒を開けると、〝運命の輪〟のカードが2枚入っていた。
「今まで、雨野は1枚を俺、もう1枚をターゲットに送っていました。次のターゲットは俺です。」と中西に告げる芹沢。
ここで…つづく。