ミミ言

思っていることをつぶやいていきます

魔王・第10話 ①

~第10話 ①~

署内。柱にもたれかかり、柱を叩く芹沢。しおりが心配して様子を見にくる。憔悴した表情の芹沢。しおりは、芹沢に犯人が誰か知ってるのか、と聞く。芹沢は、何も答えず目をそむける。しおりは、涙ぐみながら、わかっているんですね、犯人のことを憎んでいるのか、と質問を続ける。芹沢は、わからない、その人のことを殺人犯にしてしまったのは、自分だから…11年前に自分があんな事件を起こさなければ、あの人はこんな事件を起こさないですんだ、一人の人間の人生をこんなに狂わすことになるなんて、あの時、考えもしなかった、あの人と死んでいった人達のことを考える度に、自分の過去を全部捨てれたらどんなにいいか…と。それに対してしおりは、そんなにまで傷ついて生きていかなければならないなんて、そんな人生は残酷だ、でもその過去があるから、いまの真っ直ぐな芹沢がいるんだ、と。もう十分、芹沢は苦しんだし、芹沢だけでなく、これ以上もう誰も傷つく必要はない、傷ついてはいけない、だから、どんな残像を見ても逃げたりしないから、芹沢も真実から逃げないように、と言う。芹沢は、ほんの少しだけ気分が和らいだような顔をしてしおりを見る。

事務所に戻る領。戻るやいなや事務員が、葛西が宗田の殺害を自供したようだ、と報告にくる。
しかし、領は、「問題ありません。もうすぐ彼の友達が救ってくれるはずですから。」と言う。

典良に電話をする直人。それとなく様子をうかがう。典良は、葛西の件は辛かっただろう、だが罪は罪だから人として償わないと、と机の上に飾ってある自分と麻里の写真に目をやりながら言うと、直人は、葛西の容疑ははれる、と告げる。驚く典良。直人は「兄貴、すまない。」と謝る。何故、自分に謝るのか直人に確認をしようとするが、また連絡をする、と電話を切られてしまう。典良は、宗田を殺したことがばれてしまったのか、と気が気でない。
直人の前に麻里が現れる。直人は、麻里に、宗田が殺された日の夜、葛西と一緒にいたと証言をして欲しいと頼む。しかし、麻里は、そんなことはできない、と断る。葛西を救えるのは麻里しかいない、と懇願するが、麻里はできないと去って行く。うなだれる直人。

取調室。葛西に、頼むから本当のことを言って欲しいと言う芹沢。しかし、葛西は自分がやったと言う。中西の案内で、取調の状況が見える横の部屋に通される麻里。
麻里のために殺人犯になるつもりか?人殺しだ、と一生後ろ指をさされて生きていくことになるんだぞ、と言うと、葛西は、俺のせいで麻里が不幸になるほうが辛い、という。そして、芹沢に麻里への深い思いを打ち明ける。自分には麻里が必要だった、あんなに人を好きになったのは初めてだった…あの人を守れなければ、俺は生きている意味がない、自分はどうなってもいいから、麻里を巻き込まないで欲しい、苦しめないで欲しい、と頭を下げて懇願する葛西。何も言えない芹沢。

取調室の横の部屋で、葛西の言う言葉に耳を傾け、麻里は葛西のアリバイを証明する決心をする。芹沢が取調室を出ると、麻里と出くわす。しかし、麻里へアリバイ証言を依頼したものの、典良のことを考えると、複雑な表情の芹沢。
イライラしている典良。麻里が現れる。どこに行ってたのか、聞く典良。その後ろから直人が現れる。驚く典良。麻里は警察に行っていた、と答える。直人が、葛西のアリバイを証明してもらうために、自分が麻里を呼んだんだ、と説明する。何で麻里を呼ぶ必要があったのか、と聞く典良に、直人は、宗田が殺された時間、麻里は葛西と一緒にいた、葛西の無実を証明するためには他に方法はなかったんだ、と話す。典良の表情は一変し「ふざけるな、俺はどうでもいいのか?」と直人を殴り飛ばす。麻里が止めに入るが、触るなと突き放す。そして「俺は信じていた。最後は俺を選んでくれるかと…。」と呟く。麻里は葛西のことを気付いていたのか?と聞き、もう典良と一緒にいる資格はない、と離婚を切り出すが、典良は絶対に別れないと言う。
そこへ栄作が入ってくる。麻里は、部屋を出て行く。何かがあったと察知する栄作。典良は、栄作に麻里のことを打ち明けると、お前の判断は正しい、当分離婚はするな、こんなことが表沙汰になれば、何を書かれるかわからない、と満足げに笑って諭す。しかし、典良は「僕の気持ちはどうでもいいんですか?芹沢家の名前が守れれば、僕の気持ちはどうでもいいんですか?」と問う。栄作は、これが最善の策だと言う。「お父さんはいつも、何か問題が起きる度に、最善の解決をてくれました。僕らが何を考え、どういう気持ちなのかを全く考えずに。」直人は、黙って典良の言うことを聴いている。「僕は麻里とやり直したいんです。」と言うと、栄作は、何をバカなことを言っているんだ、面汚しの女房なんか飼って何の意味があるんだ、と言い立ち去ろうとする背後から、典良は続ける。「あなたが、お母さんを見殺しにしたみたいにですか。仕事のことしか頭にないあなたに、お母さんは文句ひとつ言わず、尽くし、死んでいきました。病気に気が付いても、あなたに迷惑がかかる、と誰にも何も言わず死んでいったんです。あなたはいつも正しかった、あなたはいつも絶対だった、でもあなたはいつも父親ではなかった。」と言う典良。勝手にしろ、と言い放ち出て行く栄作。部屋を出ると、心臓の痛みが襲ってくる。
典良は、直人に、麻里のことは自分も悪かったんだ、仕事ばかりで麻里を気づかってやれなかったから、と言う。しかし、取って付けたように、事件があった日も九州に出張だった、社長は忙しいんだ、と付け加える。
まだ、事実を知らない直人は、何も考えず、葛西の容疑ははれたが、宗田を殺した奴に心当たりはないか?と典良に聞く。すると典良は、顔の表情が凍りつき、知るわけないだろ!と取り乱し、直人を怒鳴る。驚く直人。直人を帰し、大きく息を吐く典良。机の上のBOXの中には、郵便物が山積みになっている。その中に、赤い封筒も入っている。

葛西に面会する領。麻里がアリバイを証明してくれた、これで殺人容疑がはれる、と葛西に告げる。しかし葛西は、尚も麻里のことをかばうので、領は「わかってあげて下さい。彼女は、あなたのために、全てを失う覚悟で証言したんです。彼女が望んでいることは、あなたが救われることです。」と言いながら、自分のことと重ねる領。領の脳裏には、しおりの顔が浮かぶ。「彼女を大切に思うなら、その気持ちをわかってあげて下さい。」と言う。
葛西は何も言わず、うつむいたままだ。