ミミ言

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魔王・第11話(最終話) ①

~第11話(最終話) ①~

中西と芹沢が話しているところへ高塚が走ってやってくる。典良が、直人を呼んで欲しい、と言っていると告げる。
取調室。典良のところへ行く直人。緊張した面持ちで、部屋に入り典良の前に座ると、
「俺は、だめな兄貴だな…。昔から意気地がなくて。お父さんに言いたいことをはっきり口にするお前を、ずっと羨ましいと思ってた。」
「何だよ、急に…。」
「俺は、いつもお父さんの顔色ばかり窺ってた。お父さん…本当はお前に跡を継いでもらいたいんだよ。」
「そんなことない。」
「俺にはわかる。お父さんのこと、頼むな。」
「ああ…。」
大きくため息をつくと、直人に最後に一服をしたいから、とタバコを買ってきて欲しいと頼む典良。わかった、と答え、出ていこうとする直人に向かって、典良は、「直人、すまない。」と声をかける。典良を見つめ、何も言わず、部屋を出て行く直人。
直人が出て行くと、典良は、手の中に握りしめていた紙切れを机の上に置く。そして、胸ポケットのシガレットケースからタバコを1本取り出す。じっと、タバコを見つめ、手がひどく震えているが、ライターの火をつける。

教会。聖母マリア像をじっと見つめるしおり。

タバコを買って戻ってくる直人。しかし、すぐに異変に気付く。
ノドに手をあて、仰向けに倒れている典良を発見する。傍らには、火のついたタバコが落ちている。灰皿とタバコを落とす直人。
「兄貴、兄貴!」と典良の体をゆするが、もう動かない。

霊安室。栄作が走ってやって来る。典良の顔に被せられた白い布を取り、典良の死に顔を見つめ「典良…どうして、お前こんな…。」と言い、典良の手を取る。
「兄貴が、これを。」と、栄作に小さな紙片を渡す。
渡された紙切れには、走り書きで、お父さん ご迷惑をおかけして申し訳ありません、と書かれてあった。
「バカなことを…。」と言い、その場に泣き崩れる栄作。

まさか署内で自殺とはな、青酸カリらしい、という刑事の会話を、すれ違いざまに聞く領。

「直人、私を許してくれ。この世のすべての人を幸せにできるなどと、偽善者の思い上がりだと思っていた。誰かの幸せの影には、必ず誰かの不幸がある。それが、この世の道理だと。息子達の幸せを守る道だと信じていたが…。この年になって情けない。私の間違いが、典良を死に追いやってしまったんだ。」典良の手を取り、涙する栄作。
栄作の様子をずっと見守っていた直人だが、「兄貴を頼みます。」と言い、部屋を出て行こうとする直人。
栄作は「どんなことがあっても…お前達…二人は私の息子だからな。」と言う。
「はい。」とうなずく直人。やっと、親子になれた時には、もう何もかも遅かった。
部屋を出て、やるせなく、顔を両手で覆って号泣する直人。

歩いてくる領の前に中西が現れる。
「先ほど、芹沢典良さんが自殺されました。」と領に告げると、領は顔色が変わる。
「これもあなたの狙いなんですか?幼い頃の傷は、その人の一生を支配します。真中友雄は17歳という若さで、これ以上ないような悲しい経験をし、その上、世の中の影を知った。それが彼を恐ろしい怪物にしてしまったのかもしれない。ですが、これだけはわかって欲しいんです。芹沢も15の時から11年もの間、罪を背負って生きている。真中友雄が、あいつの辛さを一番わかってやれるはずです。お願いします、もう、芹沢を許してやって下さい。」と、領に頭を下げる中西。領は何も答えず、うろたえた様子で中西の言葉を受け止める。
壁にもたれ、激しく泣き崩れる直人を目にする領。

暗室の中。領は、壁に貼られた、これまで復讐のターゲットにしてきた人物達の写真の中心にいる、芹沢の写真を眺めていたが、急に貼られている写真を剥ぎ取り始める。そして、散乱するタロットカード。

栄作は、典良の結婚式の時の写真を眺めている。典良と直人と栄作の3人が写っている写真を眺めているうちに、激しい心臓の発作が栄作を襲う。

緑の中を歩く領の前にしおりが現れる。領は無視をして、歩き過ぎようとするが、
「怖いんです。成瀬さんが心配で。あなたに何か起こりそうで。」と言うしおり。
領は、振り返る。しおりを見るが、俯き歩き出す。領を後ろから抱きしめるしおり。
もう辞めて欲しい、なぜ暗いトンネルの中に住もうとするのか、少しでいいから顔をあげて、きれいな木漏れ日、木々のざわめき、春、夏、秋、冬の季節の流れている景色を見たり聞いたりして欲しい、と言う。
しおりの言うことを、木々を見ながら、じっと聞いている領。
そして、自分の肩にかかった、しおりの手に自分の手をかけ、やさしく引き離し、何も言わず、立ち去る領。

栄作に電話をする直人。しかし、栄作は電話に出ない。不安がよぎる直人。

葛西に面会に来る領。
「宗田を殺した犯人は捕まってないんですか?」と領に問う葛西。
「ええ、まだ…。あなたの保釈が認められました。」領の突然の言葉に驚く葛西。
「保釈金は私が。暴行教唆で実刑になれば、外に出られるまで、何年かかるかわかりません。少しの間だけでも、愛する人を大事にしてあげて下さい。」
自分はできないけれども、葛西にはそうさせてあげたい、という領の思いが、領の表情から伝わってくる。

自宅に戻る直人。「父さん。」と呼びかけながら、部屋に入るが、何の応答もない。すると、倒れている栄作を発見する。「父さん、父さん。」と呼びかけるが、動かない。「ウソだ!ウソだ!」と言いながら、栄作の「お前達…二人は私の息子だからな。」という、栄作の最後の言葉が直人の頭の中にこだまする。栄作の手を握り、「父さんと、話したいことがたくさんあったのに。なんで…。」泣きじゃくる直人。

警察を出る葛西。麻里に電話をする。
「ありがとう、一言お礼が言いたくて。」
「葛西君、私、あの家を出ることにした。」
「ごめん、俺のいせいで。」
「私が決めたことだから。部屋で待っててもいい?」と聞く麻里。
「うん、じゃ。」と嬉しそうに歩き出す、保釈された葛西を陰から見て、激怒する山野。
山野の怒りを増長するかのように、空にも雷が光る。

直人は、栄作の傍らで、ずっと考え込んでいるが、家族3人の写真に目をやり、栄作に目をやり、何かを決意したかのような直人。

領の携帯が鳴る。電話に出る。山野に呼び出された領。
「どうして、葛西を釈放したんですかっ!」領の取った態度に、激昂する山野。
「彼はもう…十分苦しみました。」
「まだ十分じゃない!あいつも僕をいじめてた一人なんだぞ。」
「あなたは、誰のために復讐しているんですか?」
「勿論、英雄です。」
「だったら…」
「もういい、もうあなたには頼らない。僕がこの手で仕留めます。」と懐からナイフを取り出す山野。
「何をするつもりですか?」と慌てて止めようとする領。「うるさい!」興奮する山野。
「やめて下さい、そんなことしたら、英雄があなたを止めた意味がなくなる。バカなことはやめて下さい。」
山野の脳裏には、中学の頃、いじめていた直人達に仕返しをするつもりで出したナイフを英雄に取り上げられた映像が浮かんでくる。領は、山野に近づき、山野の手からナイフを取ろうとした瞬間、パニック状態のようになっている山野は、咄嗟に領を刺してしまう。腹部を押さえ、ゆっくり地面に手をつくようにして、倒れこむ領。
「あんたのせいだぞ!僕の邪魔をするから。」
「もう…やめるんだ…。」振り絞るように、声を出し、山野を止めようとする領。
「うるさいっ!」と走り去る山野。苦しそうな領。

宝石売り場。指輪を見る葛西。麻里へのプレゼントを選んでいる。
プレゼントを購入し、家に戻る途中、人とぶつかる。立ち止まり、袋の中のプレゼントを確認した瞬間、背後から衝撃を感じる。振り向くとそこにはナイフを持った山野がいた。
うすら笑いを浮かべる山野。仰向けに倒れる葛西。薄れていく意識の中、地面に落ちた麻里へのプレゼントに、手を伸ばそうとするが、届かず息が絶える。
麻里は、葛西の帰りを料理を作りながら、幸せそうに待っている。

領は、何とか立ち上がり、ベンチに座るが息も荒く、出血がひどく苦しそうだ。

カフェ。しおりが戻ると、さっき成瀬さんがしおりにって、と友達から袋を渡される。
しおりは領からの手紙を読む。領の思い出のオルゴールが傍らに置かれている。
急いで、領の携帯に電話をするが、留守電になってしまう。

領の携帯が鳴る。領は、やっとのことで携帯に出る。「成瀬です…。わかりました…。」
領の顔には脂汗がにじむ。

直人は、険しい顔で署を出る。

中西からしおりに、芹沢から電話がなかったか、と電話が入る。しおりと話しているところへ、倉田が、直人が無断で銃を持ち出した、と報告に来る。
高塚が、直人は領に会いにいくつもりじゃ…と言う会話のやりとりすべてが、電話がつながっているしおりに聞こえてしまう。領の手紙を手にし、走り出すしおり。