ミミ言

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魔王・第11話(最終話) ②

~第11話(最終話) ②~

僕は、あの日からずっと一人きりで生きてきました。信頼とか、絆とかそんなものは一切捨ててきたつもりだったんです。愛情や人を想う気持ちさえも。でも、そうではなかった。あなたはいつも僕を見ていてくれた。あなたの温かな想いが、僕の心の冷たい棘をやさしく溶かしてくれるような気がした。
一番大切なものを、置き去りにしようとしていた僕に、その無二きさを教えてくれたのはあなたでした。
今までの過ちを捨て、新たな未来をあなたと一緒に生きていけたら、あなたを近くに感じるたびに何度、そう夢見たかわかりません。でも、僕はもう後戻りすることはできません。
あと一人、どうしても死ななくてはいけない人間がいるんです。
しおりさん、申し訳ありません。そして今までありがとう。
と、領の手紙には書かれていた。

領は、腹部を手で押さえながら、朦朧とした意識の中、よろよろと人ごみの中を歩き、呼び出された場所まで向かう。

一方、署内では、管理官が、必ず芹沢を見つけ出して下さい、と指示を出し、皆、芹沢の居場所を血眼になって探す。
中西は、芹沢の自宅を訪れ、そこで、栄作がソファで死んでいるのを発見する。そして、栄作の眠る横には、2枚の〝運命の輪〟のタロットカードが並べられていた。

芹沢も、領を呼び出した場所まで向かう。

山野が葛西を殺害した後、警察官に撃たれて死んだ、というニュースが、街頭ビジョンに流れる。

「今、死ぬわけにはいかないんだ…。」と呟きながら、真っ赤に染まったシャツを隠すために、背広の上着のボタンをかける領。
芹沢と待ち合わせた場所は、英雄が亡くなった場所だった。
既に、待っている芹沢。領が来たことに気付き、険しい顔で振り返る。
「結末に相応しい場所ですね。」と領。
「最後の標的は俺か。」と言い、直人は、持ち出した銃を領に向ける。
「あんたの復讐は未完成のまま終わる。俺のせいでたくさんの人が死んだ。親父や兄貴まで。俺のせいで始まった復讐だ。だから俺の手で止めるしかないんだ。」
直人は、銃を構える。しかし、涙と迷いで焦点が定まらない。

領は悲しそうで、そして切なそうな目で直人を見つめる。
「何を迷っているんです。憎くないんですか?あなたは、たった一人の父親と、優しいお兄さんを奪われた。そしてかけがえのない親友まで殺されたんだ。殺しても、飽き足らないほど憎いはずだ、違うか?法律では僕を裁けない。復讐のチャンスは今しかないんだ。早く殺せっ!」と叫ぶ領。
直人は、我に返り、涙を流しながら、銃口を下に向ける。
「あんたの目的はこれだったのか?俺に自分を殺させることだったのか。罪を逃れた俺に、今度こそ人を殺した裁きを受けさせるために…。自分の命を犠牲にしてまで。」
「あなたはまだわからないんですか?僕の人生に、失うものなんて、疾うになかったんだ。英雄と母が死んでから。これで、全部終わる。ようやく、僕が僕にかえる時が来るんだ。さぁ…撃って下さい。これは真実から逃げたあなたの義務なんです。終わらせるんだ。僕を撃て!それがあなたの役目だ。僕を殺せ!」と、言いながら、直人に近づいていく領。
「やめてくれ…やめて…。」と領を見つめる直人。

銃を落とす直人。
首を横に振り「できない…。あなたをそこまで苦しめたのは俺だ…。俺にはあなたを殺せない。」
拍子抜けする領。しかし「終わらせるんだ。」と、領は銃を拾う。
「このまま生きていたら、僕は自分を許せない。」領は、自分のこめかみに銃をあてる。
止める直人。空に向かって、発砲する。
「やめろ!やめろ、落ち着け!」
「もう、終わらせるんだ!僕を殺してくれ!」
領と直人は言い合い、もみ合う中、もう1発銃声が鳴り響く。その瞬間、ガクンと膝をつき、倒れる直人。倒れた直人の腹部からは血が滲み出ている。
領は「おい、しっかりしろ。」と直人に声をかける。
そして、携帯を取り出し、震える手で番号を押そうとする領の手を直人が止める。
「これでよかったんだ…最初から、こうしていれば…」領の手を握り「生きて下さい。精一杯。自分のために…。生きて…下さい。友雄さん…。許して下さい。俺のことも、あなた自身も。」
そう言い、直人の手が領から離れ、地面に落ちる。息絶える直人。領の目からは、涙があふれ出て止まらない。
「しっかりしろ、目を開けてくれ!」泣きじゃくる領。直人を抱きかかえ「死ぬな!死なないでくれ!」と叫ぶ。

二人並んで座る領と直人。領は、薄れゆく意識の中で、
「初めまして。」
「人はもともと皆、いい奴だと思うんですよ。きっと犯人もそうです。」
「死んで償うことも考えました。でもここまで生きてきてしまいました。」
「あなたをこんな目に合わせたのも全部俺の責任です。」
直人の言葉が脳裏に浮かぶ。
「許してくれ、僕のことも…あなたのことも…。」と、横で眠る直人の方を見て言う領。

しおりが到着した時には、領は直人の肩にもたれかかり静かに眠っていた。
直人の手にはハーモニカが握られていた。

「気持ちいいですね。」
「海だけがこの田舎の取り柄なんで。」と海岸を歩く、中西としおり。
「よかったですよ、ここに来て。女房がね、褒めてくれるんです。顔つきが、人が変わったように穏やかになったって。知らない間に、大切なことを置き去りにして生きてきたんだって、この海に気付かされました。あいつらにも、一度でいいから見せてやりたかった。」
海を見つめながら、語る中西。しおりは、戯れるように飛ぶ2頭の蝶を見る。まるで、領と直人のよう。
中西の家に行くと、仏壇にハーモニカが置かれてあった。それに触れたしおりに電流のような衝撃が走る。

終わり