ミミ言

思っていることをつぶやいていきます

流星の絆 第10話(最終話) ②

柏原と萩村は傘を持って車に向かうところへ、功一は二人で話がしたい、と柏原を呼びとめる。心配する泰輔と静奈。しかし、功一は2人に萩村と一緒に横須賀へ行け、と言う。
功一と柏原の後ろ姿を不思議そうに見つめる、泰輔と静奈。

ジョージクルーニーの屋上。ずっと黙ったままの功一に話は何か?と聞く柏原。
功一はやっと口を開き、引退したら何をするつもりなのか?と柏原に質問する。家族もいないし、特に何もすることがない、と答える柏原に、ゴルフは?と聞く。腰を痛めてからゴルフはやめた、と言う柏原。しかし、功一はあの頃はやってたでしょ?と言うと、好きでもなかったけど、たまにやってた、と言うと、「いや、かなり熱心にやってましたよ。暇があればすぐ素振りしてたじゃないですか。俺、見てたんですよ。あの夜、物置の上から。黒い傘でゴルフの素振りしてるの。傘逆さに持つもんだから、柄の部分が時々地面にコツンコツンって当たってましたよね。あんなことしたら、柄の部分に細かい傷が一杯ついちゃうでしょうね。さっきのビニール傘みたいに。」
「何が言いたい。」
「もし、戸上さんの言う通り、傘が入れ替わっていたら、犯人が残された傘の指紋を拭き取ったのは、戸上さんが出てった後ってことになる。だけど、戸上さんが出ていくのを泰輔は見てるんです。その時ちょうど俺も家の中にいた。戸上さんが家を出てった時、俺達が帰ってきたんだから、誰も傘に近づけないはずだった。つまり、犯人は被害者の子供達が帰宅してから、傘を拭いたんです。そんなことができる人間は限られている。」とじっと柏原を見つめる功一。
「警察官なら可能っていうわけか…。それで?」
「こっからは推測です。犯人は現場に傘を忘れていくというミスを犯した。しかも指紋がついている。そこで犯人は考えました。事件の第一報が入ったら、誰よりも早く現場にかけつけて、すぐに指紋を消してしまおう、と。被害者の子供達の目を盗んで、犯人は傘の指紋を拭き取った。そして、家の外に出て、他の捜査員がかけつけるのを待った。でも、ここで犯人はもう一つ大きなミスを犯しました。傘でゴルフの練習をしているのを、被害者の息子に見られちゃったんですよ。癖になっていたのか、それとも気持ちを落ち着かせるためか、とにかくそれがきっかけで14年後に犯行を露呈をするなんて、そんなことも知らずに…ただ犯人は素振りをしていた。」
「なんで、さっき気付いた時に言わなかった。」
「まず、自分自身で確かめたかった。自分の耳で真実を聞きたかったんです、二人っきりで。だって、それは俺の勘違いだったかもしれないし、そうであって欲しいと思ったから。よりによって、一番親身になってくれた刑事さんを疑うだなんて、俺どうかしてんのかな?って…。どうぞ、出て下さいよ。」
柏原の携帯が鳴り、出ると萩村からだった。遺留品の傘の特徴が戸上の言ったことと一致した、まだ間に合うので、預かってきた傘を鑑識に回す、と言うと、柏原は萩村にひとつ頼みがある、と頼み事を伝える。

功一は、「あんたが犯人なんだろ?柏原さん。俺達の両親を殺したんだろ?答えろよっ!」と怒鳴る。
「いつかはこういう日が来ると思ってたよ。14年前、君達を車に乗せて施設に送って行ったその日から。いづれはこの子達に自分が追い詰められる日が来るなって。」
「はぐらかすなよ。何でだよ、何で殺したんだよ、柏原さんっ!」
「柏原さんって…。簡単だよ。俺が悪い人間だからだ。悪くて弱い人間だからあんなことしたんだ。」
「格好つけてんじゃないよ。俺達がどんだけの思いをして生きてきたか、あんた知ってんだろうよ。大人になったら犯人見つけてぶっ殺そうって、それだけ信じてきて生きてきたんだよ。その結果がこれかよ、ふざけんなよ、おい何か言えよ。何で殺したんだよ。」
「金だ。」
「金?」
「あぁ。俺には金が必要だった…。君の家には200万という金があった。ノミ屋の返済に充てるためにかき集めたらしい。だけど実際には、借金はその倍以上はあった。困ったお父さんが俺に泣きついてきた。刑事だから、やくざに顔がきくと思ったらしい。俺はお父さんにこう言った。その200万を俺に預けてくれ。それでノミ屋に返済を待ってくれるように交渉するからって。で、その金を受け取りに行ったんだ。ちょうど君達が星を観に行ってる時間だ…。約束通り、俺は200万を預かった。そしてこう切り出したんだ。この金を俺に貸してくれないかって。」
そして、柏原は、幸博にノミ屋を摘発すれば借金は払わなくても済むんだから、と言ったが、借金は踏み倒す上の警察にタレこみなんてことがバレたら、自分が狙われる、と言い、それでも200万を持っていこうとする自分と幸博ともみ合いになり、脅すためにはずみで台所の包丁を持ち出した幸博から、包丁を奪い取り刺し、その次に塔子を刺したこと、を話した。じっと眼を閉じ話を聞いている功一。
「許せねぇ。そんな話聞かされて我慢できるかよ、金のために、金なんかのために、親殺されてさ。そんなのやってられねぇだろっ!料理の味盗むために殺されたほうが全然マシだよ!なんだよ金って。そんなの誰でも持ってるだろ。俺の親父じゃなくてもよかったのかよ、誰でもよかったのかよ、誰でもよくねぇんだよ。俺のオヤジは一人しかいねぇんだよ。母ちゃんまで殺すことなかったのに、親父、母ちゃんのこと大好きだったんだぞ、金のために、そんなの納得いかねぇだろ!」と柏原に掴みかかる功一だが、柏原から銃口を向けられ、後ずさりする。柏原は「もっと早くこうするべきだったんだ。あの晩でもよかった。息子が死んだ日でも、君達3人とここでしゃべった夜でも。ごめんなぁ、功一。俺みたいな人間になるなよ。」と銃口を自分の喉に向ける。「ふざけんなっ!」と功一は、柏原に掴みかかり、もみ合いにある。

萩村は、柏原の机の引き出しの中にあった手紙を読み、愕然とする。そして、その手紙を泰輔と静奈に見せ、功一の元へ急ぐ。ジョージクルーニーに到着し、車を降りると、銃声が鳴り響く。「おにぃ…。」泰輔達は急いで屋上へ上がる。
屋上には、銃を持つ手を震わせて立ちすくんでる功一がいた。目の前には柏原が倒れている。
「兄貴…。」
「来るな、俺がやる。捕まるのは俺一人で十分だ。そこで見てろ。」銃口を柏原に向ける。
のっそりと起き上った柏原。「よこせ。こんなにつまらない人間でもな、殺せば人生終わるぞ。犯人捜して殺してやるって言っただろ。だったら俺が自分でやるよ。」
「じゃあ、俺がやるよ。俺らの人生、あんたのせいで半分終わってるんだよ。あの日から俺死んでんだよ。」と泰輔。
「そんなことはない。君達はこれからも助け合って生きていかなくちゃ。」
静奈も「あんたなんかに言われたくないよ。本当は助けて欲しくなんかないけど、一人で生きたいけど、それじゃ辛すぎるから助け合って生きてきたんだよ、あんたのせいで助け合ってんだよ。なんでそんなこともわかんないの?」と言う。
泰輔は「教えてくれよ。息子が死んだ後、俺らに近づいてあんた何がしたかったんだよ。」と聞く。
「いたかったんだ…。ただ君達と一緒にいたかったんだ。それだけだ。」
今度は功一は「あんたさ、泣いたのかよ。息子が死んだときあんた泣いたのかよ。俺らの両親殺して金まで奪ってそこまでして守りたかった息子が死んだ時、あんた泣いたのかよ。」と聞く。
「泣いたよ。」
「だったら俺らの気持ちわかるだろうよ!なぁ、なんであんたなんだよ。がんばって生きてきて、せっかく信用できる大人が見つかったと思ったのにさ。何であんたなんだよ。」
「功一くん、泰輔くん、静奈くん、本当にすまないことをした。」と土下座をし深々と頭を下げる柏原。3人の目からは涙がこぼれ落ちる。すると、夜空に星が流れていく。
「獅子座流星群。」という静奈の言葉に、泰輔は、「ふざけんなよ、何で今なんだよ。」
「本当だよ。やっと観れたのに全然うれしくない。」
「俺達っていつもこうだよな。ずっと願ってたのに叶わなかったことをさ、こんな時に叶うなんてさ。あんたには、生きてもらう。生きて、罪つぐなって、俺達がこの先どうやって生きていくかを見続けてもらう。生きて、遺族が笑ったり泣いたりするのを見てもらう。死んで終わりなんて虫がよすぎるよ。どんなに辛くても死ぬより辛くても、ただ生きてもらう。いいだろ?」
功一の言葉にうっすらと微笑む柏原。功一は銃を投げ捨てる。空には無数の星が流れていく。