ミミ言

思っていることをつぶやいていきます

『歌のおにいさん』 第1話②

収録現場には、子供が集まっている。不機嫌な桃太郎の格好の氷室とキジの格好うらら。スタッフから説明を受けている子供達だが、サルと犬の着ぐるみを着た健太達が入ってくると、子供達は駆け寄っていく。健太は「俺はサルじゃねぇよ!」と子供を一喝。その様子を、真鍋は笑って見ている。スタッフは、子供達に、氷室が踊っている間は氷室の前に出ないこと、氷室の衣装に触らないこと等、細かい注意をする。子供達は、「ハーイ」と言っているが、収録がスタートすると、氷室の前に出てくる子供が続出。氷室は怒って、収録を止める。2度目の収録も子供達は氷室の前に出る。キレた氷室は子供を怒鳴り、子供達は泣き出す。サルの着ぐるみを取る健太。一人の女の子がじっと健太を見ていた。収録は一旦中止となり、楽屋に戻る途中、健太は守にこのまま帰ってしまおう、と言う。すると守は「矢野くんってさ、全くやる気ないよね。」と言う。
「あるわけねぇだろ。」と答えると、「だったら、バイトでも何でもやればいいじゃん。この仕事やりたい人いくらだっているのに、失礼だよ。」と言う。不貞腐れる健太は、本気でこんな役をやりたいのか?と聞き返す。守は、顔を売るためならどんなことでもやる、例え犬の役でもね、と真剣な眼差しで答える。

スタッフ達は、番組の取り直しの準備をしている。皆、王子に不満を持っているので、悪口を言っている。かつては、子供達がスタジオに来てたが、王子が主役になってから子供も来なくなり、懐かしかった、と口にするスタッフ。今回、新人を入れようと提案したのも真鍋で、守は音大卒だし、政権交代かも、という噂話もしているが、その話をセット裏で、うららが盗み聞きをしていた。

屋上でたばこを吸う健太。バンドで歌っていた頃を思い出している。すると、目の前に「あんた見ない顔だよね、新人?」と話しかけてくる女の子。さっき、スタジオで氷室が子供を泣かした時に、健太を見ていた女の子だ。女の子は、一般参加の子供達はみんな楽しみにしてたのに、帰っちゃった、かわいそうだと思わないのか?と言い捨て、立ち去る。健太は「俺のせいかよ!」と呟く。

再度、収録開始。その前に、うららが氷室にさっき盗み聞きした噂話を耳打ちし、ワナワナとする氷室。桃太郎の歌が始まると、刀を抜き、健太と守に突きつけ、自分に忠誠を誓うならきび団子をやりましょう、と勝手に歌詞を変えて歌う氷室。そして、君達とは息が合わない、自分の役割をわかっているのか、君達は僕の引立て役、だから目立ってはいけない、と言い出す。縄文時代を〝なわふみじだい〟と言い、太古の昔、縄文時代から、犬は人間と共に生きてきた…云々と、犬役の守に言う氷室に、守は氷室に逆らおうなんて思っていない、と訴える。しかし、自分の座を奪おうとしているんじゃないのか?と疑う氷室。忠誠を誓わなければクビだ、と言う。その言葉に、ついに健太がキレる。
「ちょっと待てよ。さっきから見てりゃ、何なんだよ。子供泣かして、追い出して、その上、こいつクビにすんのかよ。何であんたにそんなこと勝手に決められるんだよ。これは子供番組なんだろ?ガキども喜ばすために、こんな格好して踊ってるんじゃねぇのかよ!」「子供なんてどうでもいいんだよ。これは僕による僕のための僕が作った番組なんだよ。クビになりたくなければ、僕に忠誠を誓え。」と守に詰め寄る氷室。守は誓います、と土下座する。氷室は、健太にも、サルのお前はどうなんだ?と聞く。
「サルじゃねーよ!バーカ。こんな茶番やってらんねーよ。あんたら、頭おかしいんじゃねーの?きび団子はいらねぇからよ、鬼退治なら一人で行ってきな!」と言い、スタジオを後にする健太。

廊下で真鍋が待ち伏せしている。喧嘩売っておいて逃げるのか?と聞く。
健太は「逃げるんじゃねーよ。あんなバカ、相手にしてらんねぇだけだよ。何が、みんなで歌おうだよ、どこが子供番組なんだよ。あんたやってて恥ずかしくねぇのか、あんたプロデューサーだろ?何であんな奴に振り回されて…」と言いかけると、
「振り回されようがどうしようが、番組を成立させるためにはこうするしかないの。社会に出て責任を果たすってこういうことなのよ。」と言う真鍋に、健太は言い返せず「くっだらねぇ…。」と呟く。
「そうね、まぁ、くだらないわね。でもだからって、あなたみたいに逃げ出すわけには、いかないの。」
「逃げてねぇよ。付き合ってらんねぇだけだよ!」
「だったら、喧嘩の後始末ぐらいつけて帰ってよ。あのねぇ、ひとつだけ言っておく。何かに不満を抱いているのなら、その現実から逃げ出すんじゃなくて、その現実を変えなくちゃいけないの。そのためには、まずは自分が変わりなさい。」ともっともな意見を言われ、健太は返す言葉も見つからず「意味わかんねぇ…。」と吐き捨て去っていく。

真鍋に言われたことを考えながら歩いていると、ビルの大型ビジョンに、自分が組んでたバンドがデビューすることを知る。「そういうことか…。」と呟く健太。

工場。休憩にする、とひと段落つけ、居間でお茶を飲む光雄と克己とさくら。テレビからは、『雪』が流れてきて、口ずさむ光雄。すると、さくらが画面を見て悲鳴をあげる。犬の着ぐるみを着た健太に気付いてしまったのだ。光雄は、テレビに映った健太を見てがく然とする。
家に戻ると、光雄が待っていた。そして、どういうことか説明しろ、と言われる。大学まで出して、犬にするためにお前を育てんじゃない、と怒り、これが本当にお前のやりたいことなのか?と聞く。
健太は「なわけねぇだろ。どこの世界に犬やりてぇバカがいるんだよ。やりたくてやってんじゃねぇよ、しょうがないからやってんだよ!」と答えると、光雄はそんなんだから内定を取り消されるんだ、と言うと、
「俺のせいじゃねぇだろ!世の中不景気だからこんな目にあってんじゃねぇのかよ。一生懸命、生きようとしたってな、世間がそうさせてくれねぇんだよ。もっと楽な時代に生まれてくりゃ俺だって…」
突然、健太を殴る光雄。「バカ野郎!生きるのにな、楽な方法なんかねぇんだよ!辛くたって、苦しくたって、頑張って生きていかなきゃなんねぇんだ!テメぇのやってること棚に上げて、人のせいにしてんじゃねぇ!おめぇみていな奴ばっかだから世の中おかしくなるんだ!」
「何も知らねぇくせに…。ある日突然、本当に突然、俺は大事なものをすべて無くしたんだ。全部無くしちまった俺に、どう頑張れって言うんだよ!何のために頑張れって言うんだよ。もうやってらんねぇんだよ、何もかも!」と言い、家を飛び出す。床には、健太が殴られた時に、ぶつかって落ちた、サルのおもちゃが壊れて横たわっている。

局では、明日の昼までに収録しないと間に合わない、と責めるスタッフに、真鍋は大丈夫だと答える。

健太は、誰もいないライブハウスに来て、ステージに座り考え込んでた。すると、明音がやって来る。デビューは、健太が就職すると決めてから決まっていたが、自分達は本気でバンドをやっていたから、本気じゃない健太に言わなかったんだ、と。いつもその場しのぎで適当に生きている健太には、一生懸命生きている人間の気持ちはわからない、と言われ、健太はこれまでの自分を振り返る。

目をつむって、バンドを組んだ歌っていたことを思い浮かべる。
人は失って初めて、無くしたものの大きさを知るらしい。俺が無くしたものはとてつもなく大きくて、胸にぽっかり空いた穴はどうしたって埋めようがなかった…ちくしょう。涙ぐむ健太。光雄、明音、真鍋から言われた言葉を胸に刻み、意を決して局へ向かう。

収録スタート寸前。健太がスタジオに入ってくる。驚くスタッフ達。「何の用だ?」と聞く氷室を無視し、スタジオ内のスタッフに対し「スタッフの皆さん、番組を途中で投げ出してすみませんでした!」と頭を下げる健太。
「おい、君がまず頭を下げなければいけないのは僕じゃないのか?」と言う氷室。
「何でだよ。」
「何でだ?いいか、何度も言うが、これは僕の僕による僕のための…」と言いかけたところで、スタジオの扉が開き、子供達が入っている。
健太は氷室のほうを振り返り「違うだろ。これは、子供の子供による子供のための番組だろ。」
真鍋は、その様子を見守りながら、面接の時、子供は好きか?という質問に、健太が「かわいそうだと思います。今の子供達は、こんな時代に生まれてかわいそうだと思います。」と答えたことを思い出している。

「だから、あんたに謝んねぇ。ぜってぇ、謝んねぇっ!」と、健太は氷室に宣戦布告をするのだった。