ミミ言

思っていることをつぶやいていきます

魔王・第7話 ②

~第7話 ②~

CDをセットして、後は再生すればいいから、と言い、部屋を出て行く看護婦。

花屋で真紀子のために、黄色のフリージアを購入する領。

再生ボタンを押す。資材置き場で池畑が取材した会話の内容が部屋に流れる。それを静かに聞く真紀子。生きてるほうが友雄と呼ばれていた、「お前が友雄だろ?」「僕の名前は領です。」と聞いた瞬間、ハッとする真紀子。

領の事務所を訪れるしおり。領は外出していると事務員達に言われるが、最近、領がよく行くカフェの人でしょ、と言われ喜ぶしおり。

真紀子のもとを訪れる領。領に声をかけられ、ビクッとする真紀子。
真紀子の部屋。ずっと暗い表情でいる真紀子を領は心配そうに、具合が悪いのか聞く。
「ねぇ…」と真紀子が何か言いかけたところへ、芹沢が入ってくる。立ち上がり、驚く領。
芹沢が警察の人間だと知り、真紀子も一瞬驚く。領を無視して、真紀子に色々と質問を浴びせる芹沢に、何も言えないまま、立ち尽くしたまま、苦痛の表情を浮かべる領。
池畑から宅配便が届いてないか聞く芹沢。送られてきた、と答える真紀子。
なぜ、警察がそれを?と聞く。ある事件の重要な証拠が録音されている可能性がある、と答える芹沢。
中味はCD-Rですね、と聞く芹沢に、ええ、と淡々と答える真紀子。いつも冷静な領だが、二人のやり取りに、頭の中がパニックになっている様子。
そして、そのCDは今ここにあるか聞くと、CDはデッキの中にある、と真紀子に言われ、デッキから一旦取り出し、確認をし、再度入れて、再生ボタンを押す芹沢。のみこまれていくCDを見ながら、もう…ダメだ…すべてが終わった…というような、また祈るような表情で、目を瞑る領。
しかし、流れてきたのは音楽だった…。芹沢は、2曲目、3曲目とスキップしていくが、全部音楽しか入っていない。「全部音楽ですか…?」と不思議そうに聞く芹沢。なぜ、このCDが真紀子のところに送られてきたのか聞くが、真紀子もわからない、と。
池畑との関係も、真紀子は一度、領のことで取材を受けただけ、と答える。
本当に、このCDだったのか聞く芹沢。真紀子は、ええ、と静かに答える。
領は、どうして…?かばってくれたのか…という表情で、真紀子をじっと見つめる。
真紀子の部屋を出て、折角、手がかりがつかめるかと思ったが、全くの空振りに解せない様子で、夕日を見ながら呆然と立ち尽くす芹沢。

真紀子は夕日を浴びながら、窓際に立っている。その傍らで、領は何も言えず、ただただ真紀子を見ている。
「領、日が暮れるね…。私の目でも夜が少しずつ近づいてくるのがわかるの。少しずつ。今日が終わっていく、明日も、その次の日も。こうやって少しずつ私は死に近づいていく。」静かに真紀子の話を聴いている領。
「私はね、死ぬことなんて怖くなかった、両親はいない、弟とも離れ離れ、友達は毎日楽しいことが一杯なのに、私は病室に閉じこもって、何も見えないままひとりぼっち…、どうせ助かる見込みがないんだもの。いつ死んでもいいって思ってた、生きててよかったなんて思ったこと一度もなかった。でもね、領。私にはあなたがいてくれた。この10年、あなたが週に1度来てくれるのが待ち遠しかった、あなたの話を聴けることが嬉しかった、あなたが持ってきてくれるお花がいい香りをさせているだけで暖かい気持ちになれたの。そして、もっと生きていたいと思った。生きていれば、こんなに幸せな時間が私にもあるんだ、って。一人きりじゃない、私には領がいるんだ、って思っただけで、もっと生きたいと思ったの。あなたは…私の希望だった。」と涙ぐむ真紀子。
涙を流し、泣きじゃくる領。「ごめん。ずっと…。」
「いいの、ずっと前からわかってた。あなたが本当に優しかったから。あなたは私を本当の姉としていつも気遣ってくれた。精一杯、領でいようとしてくれた。男の子が泣いちゃだめでしょ。領は小さい頃から泣き虫なんだから。」と真紀子。
「ごめん…。」としか言えない領。そして、警察が何を調べてるのか、あなたが何をしようとしてるかも聞かない、あなたを信じてるから、亡くなった領が信じたように…と言って、真紀子は池畑から送られてきた、CDを領にそっと渡す。
そして「きっと、あなたの目にはきれいな夕日が映ってるんでしょうね…。私のことなら大丈夫。もう一人でも生きていける。」と言う真紀子。
領は、フラフラと真紀子のそばから離れていく。
その背後から、真紀子が「領、お誕生日おめでとう…。」と。
「ありがとう…姉さん。」部屋を去る領。領の目にも、真紀子の目にもあふれ出る涙は止まらない。
「さよなら…領。」と病室の窓から差し込む夕日に照らされながら、呟く真紀子。

外で領を待っていた直人。領は足早に直人の前を歩いていく。「わからないんです。何故池畑がこれ(CD)を送ったのか。本当は何か別のものが届いているんじゃ。」と話しかける直人。そして、何かを隠すためにすり替えたんじゃないか?と続ける芹沢に、領は、姉が嘘をつくわけがない、と苛立った様子で答える。芹沢は、また改めて真紀子に話を聞きたいと申出るが、「二度と姉に近づかないで下さい!」とすごい剣幕で怒鳴り去っていく領。いつも冷静でそんな態度を見たことがない直人は驚き、何も言い返せない。

レストラン。典良が待っているところへ、麻里がやって来る。その後から、宗田が現れる。「初めまして。直人の友人の宗田です。」とジロジロと麻里を見ながら挨拶をする宗田。二人の姿が見えたんで、挨拶を、と言う宗田に、固まった表情の麻里。
食事を終え、外に出ると、葛西が待っていた。急用ができたから、麻里を送るために、葛西を呼んでおいた、という典良。3人が険しい表情だ。車に乗り込み、立ち去る姿を、典良は全部知っているかのように見送る。その背後で、宗田はニタニタ笑いながら、その光景を見ている。
急に車を止めるように言って車から降りていく麻里。その後を追いかける葛西。麻里は宗田が葛西との写真を送りつけてきて、レストランにまで姿を現したことに、相当苛立っている。そして、別れを切り出し、全てを捨て自分と生きる勇気はあるのか、と葛西に問う。葛西はできると答えるが、麻里は自分にはできない、そんなつもりはない、と言い放ち去っていく。その後ろ姿を、睨みつける葛西。

葛西の部屋で飲んでいる宗田。思いつめた葛西が帰ってくる。宗田は、不倫をネタに芹沢のホテルで支配人クラスで雇うように頼んでくれ、と言う。葛西はそんなことできるわけない、と突っぱね、言い争いになり、宗田を殴った後、馬乗りになり、ビール瓶を宗田の頭の横で叩き割った。「今度、彼女に近づいたら殺すぞ。」と粉々になったビール瓶を床に投げた。宗田は恐怖と悔しさと驚きで何も言えない。

バー。典良に呼び出された直人がやって来る。池畑の死に栄作は関与していない、と告げる典良。「息子に疑われるってどういう気持ちだろうな…。」と言う典良に、「ごめん。」と言う直人。その言葉は栄作に言ってやれ、と。兄弟で飲もうと誘うが、直人は仕事があるから、と断る。別れしなに「お前も辛かっただろう…身内を疑わないといけないのは。」と言う典良。直人は、何も言わず立ち去るが、典良は胸元のポケットから、切手が貼られて送られてきた赤い封筒を取り出す。そして、葛西に寄り添う麻里の写真を見つめる。典良はやはりすべて気付いていたのだ。

夜の公園。「危なかったですね。あの記者の家にあったCD-Rは全て処分したんで安心してたんですが、まさか送ってたなんて。でも成瀬真紀子も人がいいって言うか、利用されてただけなのに、勝手にかばってくれちゃって。」クックックックッと笑う山野。
中越しのベンチで、領は、抜け殻状態の思いつめた表情で、ボーッとしている。真紀子のことを山野が言っても、大きく表情は変わらない。
「時々わからなくなる。自分が誰で、何故生きているのか?大切な人を欺いてまで…。」
その言葉に、これまでの復讐だけを考えていた領とは違う領に、意外だというように「もしかして、迷ってるんですか?」と聞く山野。何も答えない領。

芹沢達は、事件について話し合っている。芹沢は、池畑の「死んだ奴が相手じゃ、捕まえられねぇわな。」と言う声が脳裏にリフレインしていて、真中友雄は生きている…と呟く。

事務所に戻ってくる領。自分の部屋に入ろうとすると、向かいの事務員の部屋から物音がするので、扉を開けてみると、クラッカーの音が鳴り響く。
「お誕生日おめでとうございます!」驚きと戸惑いの領。
事務員、しおり、空からのプレゼントを受け取り、これまで復讐をするだけのために生きてきて、人と触れ合うことからも遮断された人生を歩んできた領。それぞれの気持ちのこもったプレゼントに、胸が一杯で何も言えない。

帰り道。しおりは、領に、お姉さんがいて仲がいいそうですね、と何気なく言う。さらに、姉にとって領は、自慢の弟、天使の弁護士だから、と続けるしおりの言葉に、領はいたたまれなくなり立ち止まる。そして「僕は、天使なんかじゃありませんよ。」と言う領。
しおりは驚く。立ち去ろうとする領の腕を掴み、悩みがあり、力になれるなら言って欲しい、神父から天使とは美しい花を与えるものでなく、悩んでいる人のためにつとめる者のことだ、と言われたことがある、自分では領の天使にはなれないか?と言うしおりを抱き寄せ、泣きじゃくる領。
ここで…つづく。